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NFのファンクションジェネレーターは、日本の高度な製造業を支えてきたツールの1つです。性能重視で開発している有名な大企業でも標準的に採用されています。
ファンクションジェネレーターはシグナルジェネレーターとも呼ばれ、日本語では信号発生器と呼ばれます。業務においてはFG(エフジー)、SG(エスジー)と略称で呼ばれるのが一般的です。ちなみにシグナルグランドもSG、フレームグランドもFGという略称で呼ばれるため、文脈からどちらを指しているのか判断する必要があります。
FGで特に使うのがsin波形と矩形波です。sin波はキチンとサインカーブが描けるか、矩形波は時間のずれがなく正確にON/OFFが切り替えられるか、それらが安定的に長時間出力できるかなどの精度が求められます。出力信号は歪みがなく、リップルやノイズが重畳していないことが求められます。
理想的な波形信号を使うよりも、リップルやノイズが重畳している実回路に近い信号で設計したほうが信頼性が上がるのではないか、という指摘は正しいです。しかし理想状態の信号における動作を基準とし、実環境と実回路におけるリップルやノイズが重畳したときにどの程度悪化したのかの比較データがなければ、正しい判断や改善ができません。
最近ではSPICEの高精度化によって、試しに部品をはんだ付けして回路を組んでFGで信号を入れて動かしてみる機会も少なくなりました。
今回、手持ちのNF WF1946Aについて冷却ファンの異音が大きくなってきたこともあり、分解して全体を点検し、ついでにどんな設計をしているのか見てみることにしました。
カバーを開けた状態です。
一番上のボードです。
背面はスッキリしています。コネクタと配線のみで電子部品はありません。
NEC uPD65801GD025 というチップが使用されています。詳細不明ですがゲート数12kの5V駆動のゲートアレイ(ASIC)のようです。
調べてみると1990年代前半のチップのようで、この頃はかなり豊富なラインナップを揃えていたようです。
日々プロセスルールの微細化が進む分野でこんなの売れるのかな?利益率も低そうだし?と思えても簡単に型番廃止できず、プロセスルールが更新されて新型番に対応するためにラインが増えても稼働率が分散して体力を奪い、結果的に日本の半導体を終わらせたのかなと思います。半導体のラインナップを充実させると衰退するのは、こんにちのインテルを見ていても明白です。
右側にはLTC1668 16bit 50Msps DACが付いています。これで出力する波形を生成しているようです。この製品の重要な部分ですのでMade in Japanであれば国内メーカーの部品に拘って欲しいですが、性能を追い求めると国内メーカーは全滅で海外メーカーにたどり着くのは30年前から変わっていないということでしょうか。
上側にはIC61LV256-12J という32Kbyte 3.3V SRAMが使用されています。
4DP101-151F-3732 という、見慣れない形状のICが付いています。これは何だろう?と調べてみたところ、
JPC社のパルストランスという部品でした。フォトカプラのようにガルバニック絶縁をするためのようです。動作保証範囲が0〜70℃のため車載での使用は厳しいですが、改良が進めば耐圧が500Vと高いためEV用の高圧回路で色々使えそうです。このパッケージで8入力対応できるようです。
周りに付いているHA14と記載されている14pinのチップは、TI SN74AHC14 というシュミットトリガーインバータです。
高見澤製のA12W-Kというマイクロリレーが沢山使われています。
12V駆動、温度範囲-40〜85℃、2A流せるようですので、安ければ車載でも使用できそうです。
下段の基板です。色々と配線が引き回されています。
綺麗に部品が並んでいます。レイアウト設計、パターン設計、配線設計はアートワークとも呼ばれますが、アートだなと思える綺麗さです。
左上の黄色いボタン電池のような部品は恐らく設定データ用のバックアップ電池だと思いますが、ラベル印刷や刻印がなかったため仕様は不明です。
左側はI/F用の回路です。右上は1枚目の基板と同じような部品構成ですので、FG出力1chごとに基板を分けているようです。
背面です。抵抗やコンデンサのチップ部品が実装されています。この面は上下の配線とするルールにし、先ほどの部品側の面を左右配線のルールとすることで、配線の干渉を防ぐことができます。配線パターンのお手本のような、教科書に載せたいレベルの綺麗な配線です。ただし4層基板で厳格にルールを適用すると、必要な面積が増えてしまいます。
最初の基板と同じNEC uPD65801GD025、LTC1668、IC61LV256-12Jが並んでいます。しかしレイアウトや配線パターンが異なっています。FGを使用しているとCH間で何か微妙に違うなと感じることがありますが、こういう差が影響しているのでしょうか。
OKI L60851D というチップが搭載されています。正式型番は、ML60851D で USB1.1用のコントローラーチップのようです。
昔からの疑問ですが、なぜかOKI製のQFPパッケージを使う基板は、どのメーカーのどの製品の基板もパッドが長めに設計されています。フィレットの位置を見ても、もっとパッドを短くして良いと思うのです。しかし実際には写真のパッドよりも2倍長いものを見たことがあります。データシートをチェックしましたが、OKIが指定している訳ではないようです。謎です。
右下のチップ HD6417014F28 は、日立のSH-2マイコンです。32bit 28.7MHz駆動のようですので、今どきのRXマイコンと比べるとかなり低性能です。ちなみに2025年4月時点にてRXマイコンの最上位は240MHz駆動が可能で、MMX Pentiumよりも高性能です。
右上の 東芝 TC554161AFT-70L は512KByte のSRAMです。
中央上の富士通 29F800BA-70PFTNは、正式型番 MBM29F800BA-70PFTN で1MByte のFlash ROMのようです。
左下 QUICK LOGIC QL3004-0PF100C は、詳細不明ですがFPGAのようです。
とてもきれいなアートワークです。コネクタのスルーホール付近のランド、それを覆うGNDのベタ、スルーホールと繋がるティアドロップ、今どきの基板CADソフトを使えば、一瞬で自動で形状を生成してくれます。WF1946A が出たのは2004年頃ですので、使用可能なCADソフトも古いため、すべて手動で作成していたのだろうと思います。こういう細かいこだわりが凄いなと思います。実際はコネクタが実装されていないので、ノイズを拾う無駄なパターンでしかありませんが。
ちなみに真ん中にベタがカットされている太いラインがあり、C183のコンデンサでお互いのベタGNDを繋げています。左側が外部I/O側の回路、右側が信号波形を生成出力する回路になります。C183のコンデンサを繋ぐことでDCカットされてハイパスフィルターのように高周波成分だけGNDが共通になります。つまり静電気等のサージは、高周波成分がこのコンデンサを通り抜けてしまう場合があります。FG、SGといった分け方をしている回路では、FGが浮島とならないように電源に近いGNDにコンデンサを介して共通化することもありますが、この位置に必要かな?と思いました。これが有効な場合、電源と基板を繋ぐ電線コネクタの接点抵抗が大きく、基板GNDが弱いのかな?と思います。
綺麗な配線だなーと思いますが、よくよく見るとビアのサイズがバラバラです。配線の両端のビア径が異なっている箇所があります。時々ビアのインダクタンスを気にする人がいますが、1nHの差で大きく影響が出るような回路は設計がおかしいと考えるべきです。SPICEで実際に数nHのインダクタンスを追加しても、数十MHz程度の回路では影響がないことが分かると思います。導体抵抗は気にしたほうが良く、銅箔ではないため配線と同じ断面面積でも導体抵抗が高く、電流が流せなくなります。信号線ではあまり気にする必要はありませんが、電源線の場合は損失源のみでなく負荷変動時のリップル発生源にもなります。
ちなみにビアで気を付けなければいけないのは、作成する基板の品質に影響するということです。穴の中にできる導体はメッキ処理で導体が付着します。
基板には沢山の配線が付いています。細い同軸ケーブルは、電線側にアルファベットのタグが付いており、基板側にもアルファベットのシルク印刷がされているので、同じアルファベットを取り付けます。
16ピンのコネクタは、電線側に数字のタグがついています。基板側のJ301といったシルク印刷の一桁目と一致するように設計されています。きちんと分解することを考慮している設計に好感が持てます。
2枚目の基板を外した状態です。AC100Vの電圧を大きなトランスで複数の電圧に降圧させて、それを右側の基板で整流してコンデンサで平滑化し、シリーズレギュレータで降圧して綺麗な電圧を作る設計思想のようです。シリーズレギュレータは、入出力電圧の差が大きいほど発熱が大きくなります。レギュレータの負荷応答性に影響が出ない程度まで、損失を抑えるために各レギュレータの出力電圧に近くなる電圧にしているのだと思われます。
スイッチング型のDCDCコンバータを使用していないので、AC100V成分(50,60Hz)以外のリップルノイズが出ないメリットがあります。
電源回路基板のDC生成と降圧回路の拡大写真です。シリーズレギュレータを使うと膨大な発熱を起こすため、アルミフレームにレギュレータのパッケージを充てて、銅板で挟み込んで放熱させる構造です。
基板裏側の写真を撮り忘れてしまったので、どういう回路なのか憶測でしか分かりませんが、
大きな電解コンが付いています。全波整流後の平滑化のために使用し、AC100V成分のリップルを抑えるために大きな電解コンを使用していると思います。基板背面が不明なため憶測ですが、電源基板で外部I/F系とFG生成部分でGNDが分かれていましたが、ここの電源回路の時点でGNDを分けているのかもしれません。
電源回路基板です。レイアウトの関係か、直角に配線している箇所があります。直角に配線しても回路特性に変化はなく信号の減衰等は発生しないので、ノイズの減衰を目論んだ設計であれば意味がありません。では直角に配線すると何が問題なのかと言えば、配線内側の直角部分に銅箔のエッチング液が残留することがあり、基板の品質に影響が出ることがあったからです。しかしそれも1990年代までの話のようで、今の時代において気にする必要はないようです。
別角度の写真です。一番右側で説明すると、上にあるブリッジダイオードでACからDCに変換されます。その下にある大きなコンデンサは35V 2200uFですので、トランスでAC100VからAC50V程度まで降圧されているようです。大きなコンデンサで平滑化された電圧がその下にあるシリーズレギュレータNJM7812に供給され、DC12Vが出力されます。出力された電圧はその左上にある小さなコンデンサ25V 100uFに入って負荷の安定動作用のパスコンとして機能します。
写真はNJM7805Aです。シリーズレギュレータは、信号用と思われる±5Vと±15VにJRC新日本無線(現 日清紡エレクトロニクス)のNJM7800、NJM7900が使われています。その他にDCファン等に使用するNJM7812の12V、基板の動作に使用する5VにNECとサンケン製のレギュレータが使用されているようです。
使われているレギュレータは左から、
NJM7905 -5V、1.5A
NJM7805A 5V、1.5A
NJM7915 -15V、1.5A
使われているレギュレータは左から、
NJM7815A 15V、1.5A
NJM7805A 5V、1.5A
NJM7812 12V、1.5A
基板反対側に使われているレギュレータは左から、
uPC24A05 5V、2.0A NEC製
SI-3052V 5V、2.0A サンケン製?
NJM7805 5V、1.5A
使われているレギュレータは左から、
NJM7915 -15V、1.5A
NJM7815 15V、1.5A
NJM7905 -5V、1.5A
NJM7805 5V、1.5A
排熱ファンは、裏側のナットで止まっています。ファンの交換時は、写真のように背面パネルを外す必要があります。
排熱ファンは、旧松下電工製 ASF62371 DC12V 0.115A 6cm 厚さ2.5cm が使われています。
ケース前面部分は、アルミ鋳造品が使用されています。
剛性を出すために、かなり分厚い感じです。でもアルミですので軽いです。
前面端子部分です。壊れた時の修理は簡単そうです。
前面の表示部と操作部の基板です。VFD(蛍光表示管)が使用されていますが、オレンジ色の
フィルムを貼ることでオレンジ色の文字を表示させているようです。
LEDとボタンです。LEDは普通のチップLEDが使用されています。ボタンは細長い特殊な構造です。壊れたときに同等品を探すのは大変そうです。
背面です。各機能が8エリアに分かれて実装されています。
この部分も教科書のお手本のようです。
A-1には東芝 TD62C950RFが実装されています。40bitのシフトレジスタのようです。
B-1にはNEC uPD16306B0Fが実装されています。VFD管用の耐圧80V 64bitドライバICのようです。
蛍光管の点灯を7セグのように制御するようです。
C-1には、トランスが搭載されています。
VFDは蛍光管のため、比較的高い電圧(2〜30V)が必要なようです。
D-1には、LT1082というレギュレータが付いています。上記のトランスを組み合わせることで
Totally Isolated Converter という回路を形成し、AC出力に変換するようです。LT1082はLT SPICEに標準で組み込まれているので、どのような動きなのか確認してみることも可能です。
A-2には、東芝 TD62308AF 4ch トランジスタアレイが付いています。データシートを読むと定格1.5Aのようですが、トランジスタで1.5Aも流すと膨大な発熱になってしまいます。特長としてVceが50Vで耐圧が高いと謳われていますがいますが、今どきのFETではVds=60Vが当たり前です。今の時代では電流を流すときはFETが基本ですので、かつて使われていたレガシーデバイスです。
B-2には、ロジックICが使われています。
TI HA174(SN74AHC174)、TI HA138(SN74AHC138)、東芝74VHC123A です。
C-2には、謎のチップが付いています。
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