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JIS C 60068-1:2016 環境試験方法−電気・電子−第1部:通則及び指針
2016.4.25 


共通事項


※ 内容を簡単に概要をまとめたものです。内容の正確さは保証しません。
※ 必ず原文を確認してください。







□1.この規格の目的

IEC60068に準拠する試験を行うための手引きです。 この規格で規定される環境試験は、試験対象となる製品の輸送、保管、使用時の各環境下で問題がないことを確認するためのものです。
JIS C 60068制定に伴い、今まで規定されていたJIS C 0025は廃止され、この規格に移行されました。



□2.共通事項

この規格では、各試験における共通事項が記載されています。


(1)テーラリング

テーラリングとは、製品が実際に受ける厳しさを予め測定して、試験時のパラメータとして用いることを言います。
製品の代わりに測定器を輸送保管すれば、実際のデータが取れます。
闇雲に測定するのではなく、以下の例のように最も最悪な条件を想定して行います。

・輸送
例えば輸送中であれば、トラック走行中の振動が製品に影響を与えます。トラックの荷室にはエアコンが付いていないため、真夏は高温になり、真冬は凍結するような温度になります。工場からトラック、トラックから工場に積み替える時には、急激な温湿度変化が発生し、結露が起きる場合があります。製品の輸送時は、通箱に積み込まれるのか、商品としてビニール袋で密封され緩衝材で梱包された状態なのかによって影響が異なります。船便でコンテナに積まれる場合は、日中の日差しによる高温と夜の低温の温度サイクルが長期間発生します。コンテナ内の温湿度が外気と同等になるまでには時間差が発生します。温度差による気圧変化で外気の潮風がコンテナ内に入ってくる場合があります。

・保管
製品の保管では、エアコンが効いていない区画に長期間保管される可能性がある場合には、真夏の高温と真冬の低温を長期間受けることになります。昼と夜の温度変化凾狽焉A例えば製品内の実装基板の膨張係数による応力変化がストレスになります。エアコンが効いている区画でも、出入り口付近は温度変化が激しく凾狽フ温度変化を常に受ける可能性があります。また入り口付近では常に高湿となる場合があります。製品製造時の検査では良品と判断されたのに、長期間保管品が不良となるのは、これらが要因になることがあります。

・使用
製品が使用される環境も、サーバー室のように24時間常に一定の温度であるのか、エアコンがOFFされることがあるのかによって大きく変わります。例えば真夏の室内でエアコンを切っていれば、40℃以上まで上昇することもあります。クルマの車内では50℃以上になることもあります。その部屋を使うためエアコンをONにしても、室内温度が下がるまでには時間が掛かります。室内に設置されている機器もエアコンの設定温度に下がるまでには更に長い時間が掛かります。その設置されている機器の1つが製品であれば、40℃以上の条件で機器が使用され始め、少なくとも2〜30分は高温環境下で動作する可能性が常用的にあり得ます。冬のエアコンも同じように考えることができます。低温から高温に上がる場合は結露の可能性もあります。オフィス環境などでは、加湿器が使用されている場合もあります


(2)試験工程

試験工程には、前処理、初期設定、試験、後処理、最終測定の5つの工程があります。
「家に帰るまでが遠足」と同じように、試験は試験前や試験後の工程が試験中よりも重要です。


・前処理
製品を試験品として扱うための準備をします。例えばリフローから出てきたばかりの熱々の基板で試験をしても何の意味もありません。常温に冷めるまで待つ必要があります。通常は、製造→出荷→流通→使用までの最短期間程度で放置しておくべきです。
例えば、震度7に遭い、再び震度7に遭っても大丈夫な製品(住宅)を作ったとします。 再び震度7に遭っても大丈夫なことを確認するために試験を行うのであれば、試験前の前処理として震度7を1度加えておく必要があります。 初期測定の後に2回まとめて震度7を加えてしまうと、どちらの衝撃で壊れたのか分からなくなります。

・初期測定
試験品は、機能や性能が仕様通りである正常品を使う必要があります。
正常であるかを確認するために、機能の確認や性能パラメーターの測定を行います。機能とは一般的に定量的に表せない一連の仕組みや動作を指します。例えばインターネットでGoogle検索ができるか?できないか?を確認することを機能の確認といいます。性能とは定量的に表せる特性を指します。例えば、電圧、電流、時間、トルク、温度、照度などが該当します。

試験後に不具合を確認した場合、そもそも試験前から不具合があったのであれば、何の為の試験なのか分かりません。
ハンドメイドの試作品なのだから正常で当然だと思いたいものですが、一般的に自動化された量産品よりもハンドメイドのほうが不具合が多いのです。
フェールセーフ機能を確認するために意図的に壊したのであれば、その破壊度合いも定量的に仕様として盛り込む必要があります。 その意図的な破壊について、試験中に破壊度合の意図しない増加があれば、それは試験による不具合となります。
(想定内の破壊が起きたときに環境ストレスを与えると、想定外の破壊にまで進行してしまう不具合)

・試験
試験中のことを指します。熱を加えたり振動を加えたりする試験そのものを指します。

・後処理
試験後に行う処理を指します。通常は、試験後の試験品を初期測定と同じ状態にします。
同じ状態にして同じように測定や確認をすることで、正確な変化が分かります。

・最終測定
初期測定と同じことを行います。基本的には、初期測定時と同じように機能が確認でき、性能パラメーターが測定できるはずです。 試験によって回復できない変化(劣化、破壊、化学変化)が発生した場合には、機能や性能で変化として確認できます。 もし変化が機能や性能として確認できない場合で、かつそれが重要な要因となり得る場合には、問題を見逃すことになります。 すなわち、確認する機能や性能の設定(仕様決め)に問題があることになります。


(3)供試品
JIS規格では、試験品のことを供試品(きょうしひん)と呼びます。
例えばパソコン用のCPUを試験したい場合を考えます。この場合、CPU単独で動かすことは不可能です。 マザーボード、メモリ、HDD、OSなどを含めることで動作できます。 それらの絶対不可欠な周辺部分(システム、補助部分)を含めて、供試品と呼びます。


(4)発熱供試品
供試品のケースや筐体の表面温度が、常温環境下での周囲温度より凾T℃高くなるものを指します。

例えば下図のように、表面のある部分が発熱するようであれば、簡単に判断できます。
パワートランジスタやパワーMOSFETなどは、放熱性重視でレイアウトすることがあります。


ドライバICやSoCなどの発熱するICは、導熱シートなどを介して筐体に放熱させる場合もあります。



しかし実際は、下図のように熱が伝わりにくく、表面温度の上昇に時間が掛かる場合があります。
試験の趣旨を理解して判断をする必要があります。
趣旨は大きく分けて、周囲温度に与える影響を考慮した条件、供試品自体に与える負荷を考慮した条件の2種類があります。



(5)周囲温度
供試品の周りの温度を指します。発熱供試品の場合は、供試品の熱が周囲温度の上昇に繋がらないように、周囲温度を調整する必要があります。 対策としては、より広い空間を準備する、空気を強制循環させる等の方法があります。


(6)温度安定
供試品の外部や内部の温度が、±3℃以内の変動で飽和した状態を指します。
このとき、周囲温度も温度安定している必要があります。


(7)複合試験
2つ以上の試験条件を加えるものを言います。
例えば温度と振動を条件として同時に加える場合は、複合試験と言います。
ただし、以下の組み合わせは除外されます。

 a)温度と湿度
 b)温度や湿度と、負荷として使用する化学物質(例:耐油性試験の場合はオイル)
 c)温度と照度(例:日射、太陽光線)


(8)組合わせ試験
2つ以上の試験条件を切り替えて行うものを言います。
例えば供試品を高温の周囲温度に一定時間晒した後、常温に戻さずすぐに低温の周囲温度で晒すような場合は、組み合わせ試験となります。




(9)一連試験
2つ以上の試験条件を切り替えて行うものを言います。
例えば供試品を高温の周囲温度に一定時間晒した後、後処理として常温に戻し、前処理として徐々に低温にしてから晒すような場合は、一連試験となります。常温に戻すとき、常温から高温低温にするときは、前処理や後処理となるため供試品に急激な温度変化によるストレスが掛からないようにします。



□3.標準の環境条件

各試験で共通の環境条件です。
個々の試験で別途規定されている場合、製品規格で規定されている場合は、そちらが優先されます。

(1)標準基準大気条件
基準となる温度と気圧条件です。相対湿度については規定がありません。

  20℃、101.3kPa


(2)標準大気条件 その1
性能パラメーターを測定するときの、常温常湿の環境下の定義などを指します。
実際は、この値が基準となります。

この表のどれを選ぶかは悩むところですが、設定条件は 23±2℃、50±5%、96±10kPa が最適だと思われます。
許容差は小さい方が良いのですが、実現するには膨大な設備コストが掛かります。

a)温湿度の考え方
試験作業は、基本的に人間が行います。人間が労働として行うため、労働安全衛生法が適用されます。 労働安全衛生法の事務所衛生基準規則の第2章4条によれば、労働環境は常に10℃を超えている必要があります。 また第5条3項では、17℃以上28℃以下、相対湿度40%以上70%以下と規定されています。 法律で上限と下限が設けられている場合で、様々な外因によって上限にも下限にも触れる可能性がある値は中央値を取るのが普通です。 よって、23℃、56%が中央値となります。 この規格表の23℃のときの湿度は45〜55%となっており、事務所衛生基準規則の40〜70%の範囲に含まれるため、 50±5%を適用します。許容差は小さいほうが良いのですが管理が大変になります。 実現が難しい基準を掲げても無意味なため、供試品に影響がない場合には許容差を大きく取ります。 管理は以上の通りです。
前処理や後処理、試験や測定などは、温度や湿度を試験記録として残す必要があります。
管理されているはずだから、温度や湿度を試験記録として残す必要がないという考えは間違いです。

b)気圧の考え方
気圧管理は、クラス1のクリーンルームを作る並みにコストが掛かると思います。 では、そのコストに見合う効果が得られるのか?と言えば、まず得られません。 分解度の高い気圧センサや微細な気圧変化で壊れるような特殊な素子を用い、かつ生命や地球環境に重大な影響を及ぼすような高価な製品といった特殊な製品の場合は、電波暗室のような狭い空間で気圧管理し、その環境で行う必要があると思われます。 そうでない場合は、成り行きの気圧で十分なはずでず。
管理が不要なのみで、前処理や後処理、試験や測定などは、温度や湿度と同じように気圧を試験記録として残す必要があります。


(3)標準大気条件 その2
常温常湿の環境下は、以下のようにも規定されています。 範囲が広いため、室外で行う場合などの特殊な条件に適用します。 室内では一般的に空調で管理できるため、上記(2)のように管理します。 少なくともFR4などの基板を用いる電子機器では、この上限と下限で性能パラメーターに影響があるのが明らかなため適用外となります。

  15〜35℃、25〜75%、86〜106kPa


(4)後処理の条件
例えば、高温チャンバー等の低湿度の高温の環境下に長時間晒したとき、基板に吸湿していた水分が吹き飛んでしまいます。このとき、基板の絶縁抵抗が通常よりも高くなる場合があります。この場合は、標準大気条件の常温常湿の環境下に一定時間晒して、正常な状態となるように吸湿させる必要があります。 このときの条件を「管理下にある後処理条件」と呼ぶようです。このときの温度や気圧は標準大気条件、湿度は73〜77%となります。労働安全衛生法の事務所衛生基準規則の範囲を超えているため、恒温恒湿槽を用いて後処理の環境を構築します。
逆に低温環境下に長時間晒した後に、標準大気条件の常温常湿の環境下に移すと結露が発生します。この場合は結露を発生させないように徐々に標準大気条件の常温常湿に戻していくか、結露を拭き取って乾燥させる必要があります。この場合は、「管理下にある後処理条件」とは呼ばないようです。


(5)標準予備乾燥 条件
最終測定や初期測定、中間測定時の事前準備として乾燥が必要な場合は、以下の条件に晒します。

  環境条件:55±2℃、20%、86〜106kPa
  乾燥時間:6h


(6)試験後から最終測定までの許容時間

「後処理後、ただちに測定すること。」と記載されている場合は、後処理後の30分以内に測定を終わらせる必要があります。
例えば、後処理で吸湿させたのに標準大気条件の常温常湿に長時間晒すと、吸湿させた水分が蒸発してしまいます。その場合、目論見よりも条件が良くなってしまい、不良と判定されるべきものが良品と誤判定されてしまう場合もあり得ます。



□4.一連耐候性試験

以下の試験順序で、試験品に環境負荷を与え続けることを一連耐候性試験と呼びます。
各試験の間隔は、3日(72h)以内でなければいけません。
ただし(2)から(3)への移行間隔は、後処理を含めて2h以内でなければいけません。
各試験後に測定ができない場合は、(1)の初期測定と、(5)の最終測定のみ行います。

 (1) 高温試験
 (2) 湿度サイクル試験(上限温度55℃で1サイクル目)
 (3) 低温試験
 (4) 減圧試験(不要な場合は省略できる)
 (5) 湿度サイクル試験(上限温度55℃で1サイクル目)



□5.その他

本規格には色々な指針などが記載されています。
試験順序に関する文言もありますが、以下の順序で行うのが一般的です。
一般的に1つの供試品に沢山の試験を行った方が、不具合の発見は確実になります。
ただし、原因の切り分けが困難になる場合もあるため、供試品のN数を増やして個々に単独の試験を行うこともあります。

(1) 壊れない試験から行う a) → b)
 a) 非破壊試験 (自然に回復しない不具合の発生について、可能性が低い試験)
 b) 破壊試験 (自然に回復しない不具合の発生について、可能性が高い試験)

(2) 製造 → 流通 → 使用のライフサイクルに沿った試験順序
 供試品に与えるストレスは、ライフサイクルに沿うべきです。
 例えば、部品のリフロー試験(はんだ耐熱性試験)などは、一番最初に行うべきです。

寿命試験の加速試験は、壊れるべき部品が設計通りに壊れるかを短時間で確認するための手法です。
例えば電解コンデンサーを用いている製品は、電解コンの寿命時間○万時間を超えて製品寿命を設定するのが困難です。 このときの電解コンのデータシートで記載されている寿命時間は、特定の理想条件下です。 電源系に用いて発熱源が近くにある場合は105℃品でも寿命が短くなります。 リップル変動を抑えるためにパスコンとして用いる場合は、その負荷変動が連続して起こるような場合も寿命が短くなります。
その寿命時の破壊モードと同一となるように過負荷を掛けて短時間で確認するものが加速試験です。
闇雲に条件を厳しくして壊れたとき、破壊モードの詳細が異なれば、意味の無い試験となってしまいます。


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