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No.0029 2025.7.7



Nch FETの選び方









□ 1.Nch FETの選び方

信号用途か電力用途か、使う電圧はどの程度か、 どの程度発熱させて良いのか、の3つの観点で選びます。
もちろん価格や入手性も重要です。


@ ドレイン、ソース間最大電圧 VDS

ドレイン、ソース間に印加し続けてもよい最大の直流電圧です。

この電圧が高いほうが、パッケージサイズが大きくなります。
一般的にオン抵抗 Ronも VDSに比例して高くなりますが、最新の物やSiCなどの場合はVDSが高くてもオン抵抗が低い物もあります。例えば5Vの電圧をON/OFFさせたいのに VDS=600V の物を選ぶと、使うことには問題ありませんが 無駄にパッケージが大きくなり、無駄に損失が発生してしまいます。

一例として、500mA程度の電流を一定で流したい場合を考えます。
最大電圧の異なる2つのFETにて比較してみます。

(1) ローム R6002JND4は、 VDS=600V、ID=1A
(2) ローム RQ5P010SNは、 VDS=100V、ID=1A
です。

(1) の外寸は、6.5mm x 7.0mmです。Ron=3.25Ω です。
(2) の外寸は、3.0mm x 3.0mmです。Ron=0.52Ω です。

500mA一定で流すとき、
(1) の損失は0.5A x 0.5A x 3.25Ω = 0.81W
(2) の損失は0.5A x 0.5A x 0.52Ω = 0.13W

VDS=600Vのほうが6.2倍も発熱することになります。
IDが小さいため、寄生容量はどちらも小さく、比較的早いスイッチングが可能です。

しかし、VDSが低い物を選ぶときは、使用する条件によって注意が必要です。

FETがONのときに発生するドレインソース間の電位差はオン抵抗とドレイン電流の積であるため僅かですが、 OFFのときは負荷の電源電圧が印加され続けることになります。このときの電源電圧にスパイクサージが重畳された場合、 サージ対策がされていなければ VDSを上回る電圧、降伏電圧が印加されることになります。静電気やμsec幅のサージパルス等は、電力用FETにおいてアバランシェ耐量を満足することもありますが、流せる電流量および時間は非常に少なくツェナーダイオードのようには使えません。またデータシートに記載されているアバランシェエネルギー値は、サージパルスの連続印加を想定していません。TVSダイオード等の併用を推奨し、アバランシェ降伏の使用を非推奨もしくは禁止としているメーカーも多いです。

例えば電源電圧に110Vのロードダンプ的なサージパルスが印加される場合、VDS=60Vの物を使用すると、パルス印加時にアバランシェ降伏が発生します。このときVDS=150Vの物を使用すれば、何の対策もせずにアバランシェ降伏が発生しなくなります。 なおゲート側はドレイン側よりも耐圧が低く、サージ耐量も著しく低いため、電源電圧を流用する場合は特に注意が必要です。


A オン抵抗 Ron

FETがONになったときの、ドレインソース間の内部抵抗です。
等価回路で示すと、以下のようになります。

オン抵抗はゲート電圧VGSによって変動するため、通常は4V、6V、10Vのときの抵抗値が代表値として記載されています。
信号電圧やI/O電圧が5V系回路においてゲート電圧VGS=5VでON/OFFさせたい場合は、低on駆動(VGS(th)が低い)が謳われている製品もしくはVGS=4V or 4.5Vのときのオン抵抗が10Vの時と大きく変わらない物を選定し、レギュレータもしくはツェナーダイオード等を使用して10V程度の電圧を生成してON/OFFできる場合は、VGS=10Vのときの抵抗値を確認して選定します。
なおゲート電圧を上げるとオン抵抗は下がりますが、LVDS等の原理で示されるように信号電圧の電位差が大きいほどスイッチングの信号品質は悪化します。つまり高いゲート電圧で高速にPWM等のスイッチング制御をしたい場合は、ゲート駆動回路をアートワークまで踏み込んで作り込む必要があります。
発熱量はオン抵抗 Ronと、ドレインソース間に流れる電流IDの積で表せます。
よってオン抵抗が低いほど、発熱量は小さくなります。


Bドレイン、ソース間最大電流 ID

ドレイン、ソース間において流せる電流の最大値です。

基本的にオン抵抗Ronに比例します。
オン抵抗が小さいほど、IDの最大値は大きくなります。
ID=30Aの物と、ID=100Aの物を比べた場合、
ID=100Aのほうが発熱量が圧倒的に小さくなります。
しかしIDの最大値に比例して、パッケージサイズが大きくなり、価格が高価になります。

極端な例として、
IDが大きく異なるものを3つ比較してみます。

(1) ローム RE1C001UN ID=0.1A
(2) ローム RQ5H030TN ID=3A
(3) ローム RS7E200BG ID=390A

それぞれのオン抵抗は以下のようになります。

(1) のオン抵抗 Ron は、VGS=4.5Vのとき 3.5Ωです。
(2) のオン抵抗 Ron は、VGS=4.5Vのとき 0.067Ωです。
(3) のオン抵抗 Ron は、VGS=4.5Vのとき 0.00106Ωです。

例えば0.1A一定で流したい場合を考えます。

(1) の損失 は、0.1A x 0.1A x 3.5Ω = 35mW
(2) の損失 は、0.1A x 0.1A x 0.067Ω = 0.67mW
(3) の損失 は、0.1A x 0.1A x 0.00106Ω = 0.0106mW

同様に1A一定で流したい場合を考えます。

(1) は、最大定格を超えるため流せません。
(2) の損失 は、1A x 1A x 0.067Ω = 6.7mW
(3) の損失 は、1A x 1A x 0.00106Ω = 0.106mW

最後に5A一定で流したい場合を考えます。

(1) は、最大定格を超えるため流せません。
(2) は、最大定格を超えるため流せません。
(3) の損失 は、5A x 5A x 0.00106Ω = 26.5mW

(3)で1A流すより、(2)で0.1A流すほうが、計算上は発熱が大きいことが分かります。
同様に(3)で5A流すより、(1)で0.1A流すほうが、計算上は発熱が大きいことが分かります。
実際に測温した場合も、似たような傾向であることが分かります。

データシートに記載されているオン抵抗が低い(=IDの値が大きい)ほど、損失と発熱が小さくなることが分かります。
これは発熱源であるPN接合のジャンクション温度が最大150℃という半導体の限界があるため、発熱が小さくなるほど大電流が流せることになります。


C ゲート、ソース間最大電圧 VGS

ゲート、ソース間に印加し続けてもよい最大の電圧です。

ドレイン、ソース間最大電圧 VDSの値によらず、用途によって似通った値になります。 電力用は20〜30V程度、超低ON型の場合は5〜15V程度です。 ドレイン、ソース間最大電圧 VDSとは異なり、一時的な過電圧の耐性や静電気耐性がないため、サージパルスや静電気がゲートに印加されないように対策する必要があります。


D ゲートしきい値電圧VGS(th)

FETがONとして動作していると判断されるゲート電圧のしきい値です。


信号電圧やI/O電圧をゲートに直接印加させてON/OFFしたい場合は、特に重要な項目です。
5V系回路で使用した場合は最大値maxが3V以下、3.3V系回路で使用した場合は最大値maxが2V以下の物を使います。
5V系回路でVGS(th)maxが5Vの物を使うと、ON/OFFの境界付近で動作することになり、オン抵抗が非常に高い状態でONすることになり、わずかな電圧変動でオン抵抗が変動するため、非常に不安定になります。電力系で使用すると、FETが異常発熱する原因にもなります。


E寄生容量Ciss、Coss

各々の端子間の内部に寄生するキャパシタンス成分を指します。


ドレイン、ソース間最大電流 IDが大きくなるほど、もしくはオン抵抗 Ronが小さくなるほど、
寄生容量が大きくなります。
寄生容量が大きくなるほど、信号回路的な使い方やPWM制御等で高速なスイッチングができなくなります。
ゲート電圧に関係する入力側の寄生容量Cissが重要なパラメータですが、出力側の寄生容量Cossが大きくなるとCissも大きくなります。
マグネットリレー代わりにDC一定でONさせる用途等では、気にしなくて良いパラメータです。

信号用途で高速でON/OFFさせたい場合は、ドレイン、ソース間最大電流 IDがなるべく小さい物、 データシートのアンペア表示がmAの物を選びます。例えば数百mAの物であれば、寄生容量は大幅に小さくなります。
FETは電圧駆動でゲートに電圧を掛けても電流が流れないため、ONからOFFに移行させるときはプッシュプル動作で経路上の電流をGNDに捨てるか、プルダウン抵抗にて電流を捨てる必要があります。リンギング等を抑えるためにゲート付近の経路上にシリーズで抵抗を入れると、CR回路となり遅延等の原因となります。


極端な例として、
IDが大きく異なるものを3つ比較してみます。

(1) ローム RE1C001UN ID=0.25A、VGS(th)max= 1.0V
(2) ローム RD3L220SN ID=22A、VGS(th)max= 3.0V
(3) ローム RX3L18BBG ID=240A、VGS(th)max= 2.5V

(1) の入力容量Ciss は、15pFです。出力容量Coss は、4.5pFです。
(2) の入力容量Ciss は、1500pFです。出力容量Coss は、320pFです。
(3) の入力容量Ciss は、11000pFです。出力容量Coss は、2540pFです。

では寄生容量がどの程度の影響があるのか、シミュレーションしてみましょう。各製品にはLT SPICE用のモデルが準備されています。
マイコン等のコンプリメンタリ出力をシミュレーションさせるために、Pch FETとNch FETを組み合わせたプッシュプル回路を組んでいます。 ゲートにはリンギングを抑えるために51Ωをシリーズで入れています。実際は10〜33Ω程度ですが、寄生容量の影響が分かりやすいように大きめの値を使用しています。シミュレーションでは表示されないリンギングですが、実回路ではオシロスコープで確認できます。抵抗を入れると寄生容量でCR回路が形成され、リンギングを抑えることができます。



FETがOFFからONへ遷移したときのドレイン電圧です。
黄色が(1)、青緑が(2)、赤が(3)です。
(1)はVGS(th)maxが低いため、早い段階で立ち下がっています。
(3)は(2)よりも0.6us程度遅れており、寄生容量の影響であることがわかります。




FETがONからOFFへ遷移したときのドレイン電圧です。
(1)はVGS(th)maxが低く、5Vでゲート電圧を制御しているため、立ち上がる時間が遅れています。完全に立ち上がるまでは約2usですが、500kHzも難しいことが分かります。
(3)は立ち上がりの時定数が最も長く、これは寄生容量によるものです。完全に立ち上がるまでに7us程度掛かっており、100kHzも難しいことが分かります。






□ 2.IGBT と FET

IGBT と FETは明確に住み分けができます。
ですが、最近ではどちらも高性能化が進み、電圧と電流の関係でどちらも変わらない領域もあります。
しかしコストや回路を突き詰めるとやはりどちらか一択になりますが、最近ではSiCやGaNといった新技術もあるため難しいところです。

パワーデバイスで重要なのは、損失や発熱です。
IGBTはトランジスタですので、VCE satが損失源になります。
VCE=1kV以上であれば、だいたい1.5〜2Vくらいです。

FETはオン抵抗Ronが損失源になります。
ドレイン、ソース間最大電圧 VDSによって異なり、650V程度までであれば1Ω未満
1kV以上であれば大きくても1〜2Ωくらいです。
このオン抵抗を大幅に改善させたのがSiCやGaNです。

では、以下の6つの素子でいくつかの条件を考えてみます。

■IGBT
(1) ローム RGA80TSX2HR VCES=1.2kV、Ic=69A、VCE sat=1.6V
(2) ローム RGTVX6TS65 VCES=650V、Ic=80A、VCE sat=1.5V

■SiC FET
(3) ローム SCT4018KE VDS=1.2kV、Id=81A、Ron=18mΩ
(4) ローム SCT3017ALHR VDS=650V、Id=118A、Ron=17mΩ

■FET
(5) ローム R8019KNZ4 VDS=800V、Id=19A、Ron=265mΩ
(6) ローム R6576ENZ4 VDS=650V、Id=76A、Ron=46mΩ


@800Vで1A流したい場合

(1) のIGBTの損失は、1.6V x 1A = 1.6W
(3) のSiCの損失は、18mΩ x 1A x 1A= 0.018W
(5) のFETの損失は、265mΩ x 1A x 1A = 0.265W

電流量が少ない場合は、SiCやFETのほうが損失が小さくなります。


A800Vで30A流したい場合

(1) のIGBTの損失は、1.6V x 19A = 30.4W
(3) のSiCの損失は、18mΩ x 19A x 19A = 6.498W
(5) のFETは、30A流すことができません。

SiCが無かった頃、高圧で大電流を流したい場合は、IGBTしか選択肢がありませんでした。


B600Vで1A流したい場合

(2) のIGBTの損失は、1.5V x 1A = 1.5W
(4) のSiCの損失は、17mΩ x 1A x 1A = 0.017W
(6) のFETの損失は、46mΩ x 1A x 1A = 0.046W

安価なFETで、低損失な回路が作れます。


C600Vで60A流したい場合

(2) のIGBTの損失は、1.5V x 60A = 90W
(4) のSiCの損失は、17mΩ x 60A x 60A = 61.2W
(6) のFETの損失は、46mΩ x 60A x 60A = 165.6W


この場合、IGBTよりFETのほうが1.84倍発熱することになります。
(6)のFETは古い物ではなく、オン抵抗値は妥当であり、2025年の現行品として問題ない値です。

このように、高圧で大電流を流したい場合はIGBT一択でしたが、SiCやGaNのお陰で選択肢が増えました。
SiCやGaNは、信頼性等における課題や問題点もありますが、研究や改良によって日々進歩して良い製品が出てくるでしょう。 信号や小電流を制御したい場合は、FETで安価に発熱を抑えることができます。



□ 3.実際の表面温度とジャンクション温度

表面温度とジャンクション温度は、データシート記載の熱抵抗値Rthと流したいドレイン電流Id、オン抵抗Ronから算出できますが、 実測値と大きく異なります。これは製品によって異なるというよりは、メーカーによって異なります。 例えば東芝では計算値より実測値のほうが低い傾向がありますが、まれに実測値のほうが若干高い場合もありますが、概ね誤差と呼べる範囲です。計算値より悪化するケースが少ないため、シミュレーションである程度の設計検討が可能です。東芝は顧客とのトラブルを避けるために、マージンを多めにとっているのかな?という印象です。ロームではあれば、計算値より実測値のほうが若干高い傾向がありますが、誤差と呼べる範囲です。 海外メーカーの場合は、例外なく計算値より実測値のほうがはるかに大きいです。有名メーカーであっても詐欺と呼べるとほど計算値との差が大きいこともあります。

メーカーに問い合わせると、決まり文句のように「実測値は基板レイアウトによって大きく異なる」、「測定方法によって差が出る」などと外因のせいにします。噂レベルの話ですが、とある海外メーカーではデータシートの熱抵抗値[℃/W]を求めるための測定方法が、かなりインチキなようです。具体的には例えば雰囲気25℃計測時に、槽内の風が強力な恒温槽を特注して、槽内の風で強制冷却させて測定しているようです。海外メーカーは、あの手この手で奇跡の条件をデータシートに記載している場合があるため、実際に動かして確かめることが重要です。SPICEを使っていても、会議で議論していても事実は分かりません。








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